太宰治の『斜陽』が原作の映画です。なんと言っても「津軽の太宰」です。これは観に行かねばと思い、昨夜(20時35分から)行ってきました。
主演の宮本茉由さんの凛としたたたずまい、安藤政信さんの色気が凄く良くて、「映画スターは見た目だなぁ」と改めて思ったのでした。映画自体はじんわりと「いいなあ」と思えるタイプの作品で、今日も印象深いシーンを反芻しては、あれこれ考えて楽しんでいるところです。
夜の回ということもあったと思うのですが、観客は私ともう一人。たった二人のための上映という、贅沢というか申し訳ないというか、地方都市ならではの光景でした。
映画が終わって、もう一人の観客、私よりはかなり年上とお見受けした女性の方と二人、前後に連れ立つように駐車場に向かいました。その方がご自分の車のところで立ち止まられたので、私が通り過ぎようとしたとき、「あの」と話しかけられました。
「映画、良かったですよね」
ああ、分かるなあと思いました。今見終わったばかりの映画に心掴まれて、その興奮を誰かと分かち合いたいのだと、それで思い切って見ず知らずの私に声をかけたのだろうと、そう思いました。
「はい。良かったですね。役者さんが皆さんとっても良かったですよね」
私がそうお返事しますと、その方は興奮気味に次のようなお話をして下さいました。
「私ね、太宰治と誕生日が一緒なんですよね。それでね、父は太宰と同期でね、良くあいつは金持ちのボンボンでとか話してまして。それからね、太宰と一緒になった芸者さん、小山初代さんって、いるでしょ。知ってる人の娘さんなんですよね。いろいろ思い出しましてねぇ」
寒い中での立ち話でしたので、「そこのところ詳しく」というわけにもいかず、ただただ「へえ!へえ!」と聞くばかりで、お話が一区切りついたところで、「お気を付けて」と互いに言い交わしてのお別れとなりました。
なんと言っても「津軽の太宰」ですね。こんな風に太宰治に個人的思い出や思い入れを持つ方と偶然の出会いがあるなんて。
映画の後にさらにもう一本、短い短いドキュメンタリー作品をみたような、そんな気分になりました。残念なのは、もっとゆっくりお聞きしたかったという点です。
その方のお話を伺っていた数分間、きっと私は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていたでしょうね。ちょっとすぐには理解できないような、なかなかヘビーな内容でしたもの。
その時のわたくしは、鳩のごとく、ヘビーのごとく、しゃようでございましたとも。では。