弘南鉄道黒石線に「田舎館駅」という駅があります。一見、何の変哲もない、「名は体をあらわす」という言葉を具現化したような田舎町の駅舎です。ご覧下さい。
さて、青森県民は様々なメディアで先刻ご承知でしょうが、こちらの駅舎の内部は、弘前市出身のGOMA氏というアーティストによって装飾されているのです。どんな感じだと思います?想像というか、予想してみて下さい。
では行きますよ。私のつたない写真ですが、こんな感じです ↓
あたり一面、壁も天井も「GOMAワールド」で埋め尽くされていて、椅子だってこんな感じです ↓
GOMA氏は最近注目のアーティストらしく、弘前市内の商業施設でのイベントなど、時々作品を目にする機会がありました。でも、包み隠さず言うと、なんだか頭がクラクラするような落ち着かない絵だなあと思い、私はあまり好きではなかったのです。なので、一瞥するに留めておりました。
今回は、たまたま近くを通りかかったのでちょっとした好奇心から寄ってみて、思いがけない衝撃を覚えたのです。なんというか、見飽きない。次はレジャーマットを持ってきて、床に寝転んで見上げてみたい、そんな事まで思いました。
こちらの駅は高校生の利用が多いかと思うのですが、上の椅子に座って電車を待つ間、高校生はきっとこの絵を眺めるんじゃないかな、そう思ったのです。もしそうなら、それって、凄いことですよ、スマホとの戦いに勝利するという事なのですから。アートにはそういう力があるのかもしれない、門外漢は思いました。
もう一つ。門外漢のアートについての感想にお付き合い下さい。
最近弘前市内を車で走っていると、思わず振り返ってしまいそうになる「物体」があるのです。
↓ れんが倉庫美術館の芝生ごしに撮影すると、こんな感じ。
これはNTT東日本弘前支店本町ビルの無線通信用鉄塔なのですが、改修工事のために布に覆われている姿なのです。鉄塔は高さ73mで、市内で一番高い建造物です。
インパクトあります。「日常の見慣れた風景の変容」ってやつですね。何がどうだと言うことも無いのですが、日常の歩みを「えっ!?」と一瞬止める、そういう力を感じました。
今年5月に亡くなったクリストという芸術家の、『梱包されたポン=ヌフ』(1985年)という作品があります。Wikipediaからです。
ポン=ヌフはパリで最も古い橋なのですが、その橋全体を布で包んでしまうという、とてつもない(Wikipediaを読むとクリストと奥さんのジャンヌ=クロードはいつでもとてつもないらしい)プロジェクトでした。このプロジェクトを知ったときは、莫大な費用を投じて、何のためにそんな事をするんだろうと思ったのですが、NTTの鉄塔を見て、考えを新たにしました。
スケールの大きさは「質」の変化をもたらします。NTTの鉄塔で「日常の変容」を感じたのは、あり得ない大きさの物が「包まれて」いたからです。ましてや、ポン=ヌフ。ポン=ヌフが梱包されたとなっては、それを目の当たりにした人々の驚愕や戸惑いはいかばかりであったか。足元が揺らぐような、そんな感覚にとらわれた人も多かったのではないでしょうか。アートって、そういうこと?それがアートの力?そんな事を思ったのでした。
人々にアーと驚きを与え、日常に変革をもたらす、それがアートなのかも。では。