昨日の続きです。
NHK・Eテレの『575でカガク!』という番組で、次のような字幕がありました。
ミトコンドリア・イブ(ミトコンドリアDNAによって割り出された人類の祖先といわれる女性)
ミトコンドリアDNAというものは母親からしか伝わらないため、母系の先祖を確実に遡れることになります。母→祖母→曾祖母→高祖母・・・というふうに。
そして、およそ16万~20万年遡ると、すべての現生人類のミトコンドリアDNAは、ある一人のアフリカの女性に到達することになるのだそうです。
その女性が、私達のミトコンドリアを遡る時間の旅で最初に出会う共通の母親ということになり、聖書に登場する最初の女性・イブにあやかって、ミトコンドリア・イブという呼び名がついたということです。
そして、その名前の印象もあってか、ミトコンドリア・イブには「ある誤解」がつきまとうことになったのです。勿論、専門家の間ではそのような問題は起きてはいないのでしょうが、ちょっと生物学や遺伝といったものに興味のある素人さん(私のような)の間では、しばしばまことしやかに語られる誤解があるのです。
それは、「私達現生人類は、たった一人のアフリカ人女性の子孫なんだ」というものです。でもそうじゃないんですよね~。ちょっと考えただけでも、先祖というものは、例えば祖母は2人、曾祖母ならなら4人存在するのに、その考え方では母方の祖母とその母以外の4人は無視されることになって、変ですよね。確実に遺伝子は受け継いでいるというのに。
でも、そのことについて解説してある文章はおうおうにして分かりにくく、文系にはどうもしっくりこないのです。そこで、「根っから文系」、でも「自然科学も嫌いじゃ無い」の私が、解説を試みたいと思います。
そもそも「ミトコンドリア・イブ」という存在で私達は何を知ることが出来るのか。それはですね、「現生人類の祖先はアフリカで誕生し、その後世界に伝播していった」という学説(アフリカ単一起源説)なのです。
私達一人一人っていろいろな「要素」で出来ていますよね。例えば、女で、直毛で、舌を左右から巻くことは出来ない、とか。それらは遙か昔の無数のご先祖様(男女両方)から、延々と受け継がれてきたものなわけです(突然変異は今は考えないことにします)。
そんな要素の一つにミトコンドリアDNAもあるわけです。そして、様々な「要素」のうち、ミトコンドリアDNAにだけ着目すれば、母→祖母→曾祖母→高祖母・・・→アフリカの女性、となるわけです。勿論、そのアフリカ女性にもお母さんがいて、更にお母さんのお母さんとつながって切りが無い、とも言えるわけです。
でも、進化学上大事なのは「最初に到達する共通のミトコンドリアDNAの持ち主」です。なぜなら、その存在は先に書いたアフリカ単一起源説を裏付けるためのものだからです。でも、その女性はその時代のたった一人の女性だったわけではなく、たまたま娘を何人か産み、その娘達も娘を産み、さらに・・・と、現在まで途切れること無く女の子が生まれた「究極の女腹」とも言うべき女性だったに過ぎず、それ以上の意味はないのです。いえ、ある意味凄い事のような気もします。彼女以外の同時代の女性の子孫は、どこかの時点で娘が途切れたということなのですから。
では、私の持つ「要素」のうち、直毛や舌を巻くことが出来ないと言った要素に着目すればどうなるでしょうか。それらはミトコンドリアDNAではなく、核DNAによる遺伝ですから、母系だけではなく当然父系の遺伝もあるわけで、それが現実の私達の遺伝状況なわけです。そして、もしもそう言った「要素」が、父方の遺伝ならば、先祖を遡る旅の出発点からして大きく異なることになり、当然辿り着く先はミトコンドリア・イブとは全く異なる人物となるわけです。
このように、ミトコンドリア・イブとは、私達を構成する様々な「遺伝」の要素のうち、あくまでミトコンドリアに限定して辿り着いた祖先に過ぎないわけです。
ミトコンドリアとは反対に、父系からしか伝わらないものがあります。Y染色体です。Y染色体は男性にしかないのですから。そのY染色体について、父→祖父→曾祖父・・・と辿っていきますと、やはり一人の男性に行き着くことになるらしく、それは「Y染色体アダム」と呼ばれるそうです。
よく、「赤の他人だと思っていたのに、家系をたどっていったら遠い遠い親戚だった」なんて話がありますが、全人類規模でも、家系の辿り方によってそういうことがあるのだなあと、つくづく科学って面白いなと思うのです。
いかがでしたでしょうか。エデンではなく、遺伝のお話でしたが、少しでも「面白さ」が伝われば嬉しいのですが、もし、「難しい」とお感じの方がいらっしゃいましたら、お勧めしたい物があります。それはアダムとイブが食べたとされる「リンゴ」です。「知恵の実」と言われるぐらいですから、きっとお役に立つかと思います。特に、青森県産リンゴ、これはお勧めです。では。