昭和には、「どいまさる」という有名な方が、二人おられました。
お一人は、テレビ番組の司会者・土居まさる氏。そしてもうひとかたは料理研究家・土井勝氏です。現在、テレビの料理番組で良くお見かけする土井善晴氏は、勝氏の二男にあたります。
料理研究家・土井勝氏は黒豆の煮方において、革命を起こされた方として有名です。そう、おせち料理の中で根強い人気を誇る、あの黒豆です。土井氏はその方法を、15年という歳月を掛けてあみ出し、それを惜しげも無く披露・指導したのだそうです。
それまで、「黒豆を炊く(煮る)」のは難しいものとされていました。そして、できあがりはシワシワの状態になるのが当たり前だったのです。それを、誰でも失敗無く炊くことが出来、しかもツヤツヤふっくらの状態に完成させられるような方法を確立したのですから、その功績は大なるものがあります。
さらに。ご本人も意図されなかった事でしょうが、おせちの「いわれ」にも大変革をもたらしたのです。
そもそも、おせち料理にはそれぞれお目出たい「いわれ」がありまして、黒豆にも当然あるわけです。黒豆のマメが忠実(まめ)に通じるところから、よく働くという意味が、そして黒豆のように良く日に焼けて健康に、さらにそのシワのように長生きしますように、これらの意味が込められた縁起物なわけです。
ところが、土井氏の編み出した方法が普及したことにより、おせちの黒豆はシワの無いものが普通になりました。また、市販の黒豆を購入するというのも一般的になった昨今、やっぱりその黒豆はシワの無いツヤツヤふっくらタイプなのです。
このことから今日では、縁起物としての黒豆の意味は、「しわが寄らず、若々しく」に変化したのだそうです。
たかが黒豆、されど黒豆。一流の料理研究家にかかれば、「おせち」のいわれという伝統中の伝統も、簡単に料理されてしまうという驚きの実話です。ビックリでしょう?
「鳩が豆鉄砲を食らったような」というのは、こういうときに使うのでしょうか。では。