編み物熱が高まってしまって、まぶたがピクピクするほど長時間編んだりしています。そもそも、何十年もご無沙汰だった編み物を再開したのは、退職して時間が有り余っていることと、手許にある毛糸をなんとか処理しないとという、「断捨離」の一環としてでした。糸のままで捨てるのはあまりに忍びなく、何か形ある物にして少しでも使った後でなら心置きなく捨てられると、そう考えたのでした。
編み物をしている時間はそれなりに楽しいのですが、昔と違って安くていいものが簡単に手に入るこのご時世に、私は一体何をしているのだろうと、戸惑いにも似た、そんな疑問がふと頭をもたげることがあります。
暮れに会った友人が、とても素敵なコートを着ていました。聞けば、わざわざ習いに行って時間とお金をかけて自分で仕立てたとのこと。素晴らしい完成度に感心しつつ、質問せずにはいられませんでした。
「ねえ、コートはいっぱい持ってるでしょう?新しいのが欲しければ買うという選択肢もあるよね。なんで自分で仕立てようと思ったの?」
「それが、断捨離しすぎて気がついたら冬のコートが無かったのよ。で、たまたま貰い物の生地があるし、作ろう!と決心したの。でも、自分を追い込まないと中々進まないから、習いに行って短期間でけりをつけることにしたの」
そうかあ、コートが無いから買うか作るか、生地があるから作る。手作りにはそういう切実な動機もあるのだなあと、なんだか目からウロコって感じでした。
別な日。別な友人に会った際、私が着ているセーターを自分で編んだと自慢したところ、
「編み物っていいよね。私ももう少し時間が出来たらやりたいと思ってるの。教えてね」
そう言われました。でも、私は彼女に次のように言いました。
「昔の道具や毛糸が残ってるならいいけど、新しく買ってやるなら勧めないよ。毛糸代も結構かかるから、同じお金で既製品を買った方がいいと思う。編み物ってサイズピッタリに作るのも、なかなか難しいし」
彼女からはとてもハッキリとした答えが返ってきたのでした。
「私の母が縫い物も編み物も何でも出来る人で、自分の着るものは何でも自分でつくってたの。それを見て育ったせいか凄く憧れがあって。私も年をとったら、自分のものを自分で作って身につけたいと思ってた」
人それぞれ、手作りすることに対しての「思い」というものがあるんですね。
さて。
では私にとって編み物とは何か、ちょっと考え、結論に至りました。そうそれは、紛れもない「趣味」なのです。
編み物が趣味って、何を今更とお思いの読者もいらっしゃる事でしょう。どういうことか、説明したいと思います。
私、毛糸を買いました。写真がその毛糸です。今までは、大昔に買った糸や残り糸、母達から引き継いだ糸など、ほとんどお金をかけずに編み物をしてきました。それでもまだまだ手許には古い糸があるのです。が、編み物の本を見たりして「編んでみたいなあ」と思う作品に出会っても、手持ちの糸では合わないのですよ。今までは手持ちの糸で出来る物を編んできましたが、方針変更。編みたい物があるときは糸を買って編むことにしたのです。お金はかかりますが、いいの、趣味だから。趣味ってお金がかかるものでしょう?
長々と書いてきましたが、ここまでの字数を費やして何を書きたかったかと言いますと、「毛糸にお金を使ってもいいよね」という自分に対する言い訳なのでした。
写真の毛糸は通販で買ったのですが、「かせ」の状態で届きました。椅子の脚に引っ掛けて玉に巻いていると、息子が「何やってるの?」と聞いてきました。そうだよね、若い人は「かせ」の毛糸なんてみたこと無いよね。「かせ」のままでは使えないからこんな風に巻き直すのだと説明しながら、
「ほら、これってサザエさんちのタマがじゃれる、あの毛糸だよ」と糸玉を見せました。考えてみれば、糸玉は「かせ」から巻くか、編みほぐしの糸を巻くかしないと出来ないわけで、新品の毛糸しか知らなければ珍しかろうと思ったのです。
「ああ、分かる分かる」
息子の反応は素っ気ない物でした。そうよね、面白い物でもないわよね。たまに独りで勝手に盛り上がってしまうところが私の欠点、玉に瑕なのです。
新しい毛糸は編みたい作品の指定糸で、でも色は自分の好みで注文したので出来上がりがどうなるか、とっても楽しみです。あまりあせらず、ゆったりとした気持ちで丁寧に編んでいきたいと思っています。
勿論、古い糸だって粗末にはしません。使いようによっては面白い物が出来ますから。
Youtubeを参考に、あまり糸をかき集めて編んだ帽子です。あまり難しく考えず、配色はかなりいい加減、行き当たりばったりで編んだのですが、なんとなくまとまりました。
冬は暗い色が多い中、ハッと目を引く帽子になったと思います。残り糸をあれこれ工夫して使うのはボケぼうしにもなるかもしれないし、新しい糸だけではなく、古い糸も意図的に活用していきたい思います。では。