おばあさん見習いの日々(ダジャレ付き)

1961年生まれ。丑年。口癖は「もう!」

壊れた清姫

今週のお題「最近壊した・壊れたもの」

 今週のお題そのものからはちょっとずれるのですが、「壊れたもの」から私が連想してしまったので、書きます。

 

 前回の記事で山種美術館を訪れたことに触れたのですが、その中に小林古径の、道成寺の物語をテーマにした8枚セットの『清姫』という作品がありました。『清姫』が全8面一挙公開されるのは5年ぶりだそうです。

 本物を見てこそ良さが分かるという作品があると思うのですが、『清姫』はまさにそういった作品なのではないかと思います。

 描かれた場面に沿って簡単にストーリーを紹介しますね。

➀旅立

 美しい僧侶・安珍が熊野詣へと旅立ちます

②寝所

 一夜を借りた安珍の寝姿に、心奪われるその家の娘・清姫

➂熊野

 無事に熊野詣を果たした安珍ですが、「帰りに寄る」という清姫との約束を破ります

清姫

 裏切られたと知った清姫、飛ぶように山をかけ、安珍の後を追います

⑤川岸

 清姫から逃げるため渡し船に乗ろうと急ぐ安珍

日高川(写真はパンフレットより)

 安珍を追って日高川に飛び込もうとする清姫

⑦鐘巻(写真はパンフレットより)

 大蛇(龍のように見えますが)となって、鐘の中に隠れた安珍と自分自身を焼きつくす清姫

⑧入相桜(いりあいざくら)

 二人の生まれ変わりのように道成寺に咲く満開の桜

 

 ④の、山を翔けるように走る清姫を見たとき、かなりグッと来たんですよね。美しい衣をまとってはいるけれど、まるで山姥のようで。

 「恋に狂って、清姫、壊れてる」

そんな感想が浮かびました。

 人間に対して「壊れる」と表現するのはつい最近の使い方で、普通は「狂う」ですよね。でも、この清姫は「壊れてる」の方がぴったりだと思ったのです。

 「狂う」は「狂人」という言葉があるように、「人」の状態です。でも、「人ではない」という状態になってしまったら。その状態ではもう「壊れてしまった」と、「もう人には戻れない」と、そういう状態なのではないかと思うのです。

 ④では山姥になってしまった清姫ですが、➅の日高川に飛び込むや、大蛇に変わり果てるのです。描かれているのはその一瞬前、人間の姿を留める最後の瞬間です。

 

 『清姫』を最初から順番に見ていくと、頭の中で音楽が鳴り始めます。それは次第に速く激しい演奏になっていって、⑦でクライマックス、打楽器が激しく打ち鳴らされる感じ。そして、ピタリと音がやんで静寂の中に⑧の入相桜が現れる、そんな感じ。伝わりますかね~?機会がありましたら、是非ご覧になって頂きたいです。

 

 今週のお題ということで書きましたが、やっぱりずれてますよね。

 「大蛇になる話のどこが今週の題じゃ!」なんて呆れずに、平常運転の「おばあさん見習い」だと、あんちんして読んでくださいね。では。