おばあさん見習いの日々(ダジャレ付き)

1961年生まれ。丑年。口癖は「もう!」

佐々木邦『苦心の学友』を読んで

 佐々木邦(くに)という作家をご存じでしょうか?

佐々木邦 - Wikipedia

 

 私は全然知らなかったのですが、ほんの偶然から彼の『朝起きの人達』という短編を読みまして、そのすっとぼけた文章が面白く、別の作品も読んでみようとしばらく前に購入し、このたび読み終わったのが『苦心の学友』という、昭和2年から少年倶楽部に連載された少年向けの小説です。これは日本最初のユーモア小説ともいわれる作品なのだそうです。

 抱腹絶倒とか思わず吹き出すとか、そういう面白さではなく、ジワジワとかクスリとかいった類いの面白さ、つまりユーモラスなのです。そしてやっぱり「すっとぼけている」という表現が一番ぴったりくるのです。この面白さは文章とストーリーとキャラクターとエピソードと、作品全体を通して味わってもらうしかないので、お時間と興味のある方は是非読んでみて下さい。何か明るい物を読みたいという方にお勧めです。青空文庫でも読めるようです。

 

 この作品は中学生を主人公にした学園ものなので、読者も同年代を意識して書かれているはずです。ところが、使われる「言葉」「言い回し」がなかなか難しく、こんな小説が読めた昔の子供は凄いなと、感心してしまうのです。

 例えば、主人公の内藤正三君は、華族・花岡照彦様の「学友」として、照彦様をお守りするという使命があるのですが、そのため同級生から「花岡の家来」とからかわれるのです。そして、正三という名前をもじって、「正三位(しょうさんみ)、正三位」とあだ名で呼ばれます。作中では「正三位」についての説明はありません。当時の子供にとっては、「正三位」が地位を表す言葉だというのは常識だったんでしょうか。

 また、切腹しようとした家来が止められたということを書くのに、

 「安斉先生はつぎの間へさがったが、お父様(殿様)は心配になってのぞいてみた。すると大変!『ご短慮、ご短慮』といって、富田さんがおさえている」

 「ほんとうにやるつもりだったんですか?」

 「いや。もう突きたてていたんだ」

こんな調子です。

 これで分かったんでしょうから、大正生まれは凄いですね。そしてきっと、「少年倶楽部」を読んでいる者同士で、「ご短慮、ご短慮」と切腹ごっこをしたりしたんじゃないでしょうか。知識や読解力に差はあっても、中学生男子の面白がることには、昔も今もそう違いはないでしょうから。

 確かに、登場人物達が浮世離れと言いますか、笑いは笑いでもちょっと苦笑いしたくなるような描写もあるのですが、それでも、とにかく読んでいてほのぼのとする、読後感のいい小説です。がく言う私も大いに楽しみましたよ。では。