以前、イギリスに旅行したとき、デザートにはことごとくミントが使われていて、
「なんで?これにミント使う必要ある?」
と憤慨した思い出があります。そう言えば、イギリスの有名なチョコレートといえば『アフターエイト』。まさしく、「チョコミント」。イギリス人はミント味がお好きなんでしょうね(私は好きとは言っていない)。
アフターエイトとは、八時過ぎ、つまり、「夕食後、大人がゆっくり楽しむチョコレート」といった意味合いのネーミングなのでしょう。でも、日本の奥様方にとっては、夜の八時過ぎはまだまだ大忙し。「アタフタエイト」って感じですよね。(今回のダジャレへの評価は甘めでお願いします)
下の写真はイタリア・ヴェネツィアのお菓子屋さんのショーウインドウ。ミント色のガラスの葉先をチョコレートが滴り落ちています。オシャレ~
「チョコミント」には、チョコッと触れただけで、ここからは「ミント」について書きます。長文です。しかも、化学の話です(ホントに)。ダジャレも無しです。時間に余裕のある方はお付き合い下さい。
ミントと言えば、あの独特の清涼感(スースー感)が特徴です。その正体はミントに含まれるメントールという物質で、化学的に合成することが可能です。ところが、普通に合成するだけでは、ある不都合が生じるのです。それは、清涼感のあるメントール(使えるヤツ)と、全く清涼感のないメントール(使えねえヤツ)が、五分五分の割合で出来てしまうということです。これは製造コストの面で大問題です。
使えるヤツと使えないヤツは、構造的には全く同じ形。私達の右手と左手のように。うん?右手と左手?確かに形は同じだけれど、同じじゃない。手のひらを上に向けた状態では左右は重ねられない、合掌の形ならピタッと合うけれど。そうです、右手と左手はお互いが鏡に映った像のような関係になっていますね。メントールの使えるヤツと使えないヤツとの関係もその通り。これを化学では「鏡像異性体」とか「光学異性体」と呼びます。
さて、メントールには「鏡像異性体」が存在することが判明しました。となれば、次に化学者が目指すのは、「使えるヤツ」だけを作る(不斉合成といいます)ぞ!となりますね。それを成し遂げたのが野依良治氏です。野依氏はそれらの研究成果によりノーベル化学賞を受賞しました。
話は変わりますが、鏡像異性体を持つ有名な化学物質に「サリドマイド」があります。鏡像異性体の一方は催眠作用のみを持ち、もう一方は催奇性(ある物質が生物の発生段階において奇形を生じさせる性質や作用のこと)だけを持つのだそうです。現在の不斉合成の技術を用いれば「使えるヤツ」だけを作ることは可能です。ところが、「使えるヤツ」のみを動物に投与しても、一部は比較的速やかに、動物体内で「使えないヤツ(催奇性有り)」に変化してしまうのだそうです。
私は昭和36年生まれですが、同世代の人なら「典子は、今」と言う映画をご存知でしょう。サリドマイド児の典子さんの生活に迫ったドキュメンタリー作品です。私達世代には、サリドマイドという言葉は非常に重いものがあります。
典子さんは昭和37年生まれ。
大きな薬害をもたらしたサリドマイド薬は睡眠薬・胃腸薬として昭和33年発売開始。つわりにも効くということで多くの妊婦が服用し、手足に障害をもった子供が生まれて社会問題となり、昭和37年、販売禁止。つまり、昭和33年から数年の間に生まれた子供は、自分がサリドマイド禍の被害者となる可能性が十分にあったわけです。その思いがあるからこそ、昭和36年前後に生まれた者にとって、「サリドマイド」という言葉は特別な意味をもって迫ってくるのです。
さて、私がなぜ今「サリドマイド」について書いたのか。それは以前、ひょんなことから鏡像異性体について調べることになり、その過程でサリドマイド禍は終わっていないと言うことを知ったからなのです。
現在、「サリドマイド」はハンセン病やがん等に一定の効果があることがわかっています。
以下、Wikipediaより抜粋
ハンセン病患者が多いブラジルでも、再びサリドマイドが、らい性結節性紅斑(ENL)一時抑制薬として認可された
ブラジルでは貧困層でのハンセン病の罹患が多く、無料でサリドマイドが配られている。薬のパッケージには「妊婦の使用を禁止するマーク」(ピクトグラム)がついているが、これが中絶薬と誤解され、誤って服用した妊婦から奇形児が生まれるという悲劇が起きている。これはブラジルの貧困層の識字率が低いことが背景にある。
サリドマイド禍は終わっていない、 そしてその原因は「貧困」にあるという現実。
唐突なようですが、あらためて、「読み書きそろばん」大事!
そう強く思わずにはいられませんでした。やっぱり「教育」大事!
今回、その思いをこうして「今週のお題」にかこつけて書くことが出来、うれしいです。読んで下さった皆さん、お忙しい中、有り難うございました。