おばあさん見習いの日々(ダジャレ付き)

1961年生まれ。丑年。口癖は「もう!」

①弟と下北半島旅

  私には東京に住む弟がいます。「数年ぶりに墓参りに行く」と連絡があり、「それなら一緒に下北巡りしよう」ということになりました。
 細かい事はぼかしつつ、旅行記を書きたいと思います。

 まずは、下北が誇る絶景の地『仏ヶ浦(ほとけがうら)』の写真をご覧下さい。

 この『仏ヶ浦』をめざし、私の運転で車を走らせました。旅行中はハンドルを握るのは私ということに決め、
 弟 「じゃさあ、俺、昼間っからビール飲んでいいかな?」
 私 「いいよ、いいよ。旅行気分を満喫して」
 弟 「嬉しいなあ。昼のビール、うまいんだよなあ」
 という会話を交わし、それはそれはビールを楽しみにする弟を助手席に、私は昼食のため、経路の途中にあるお目当ての食堂へと向かいました。
 その食堂は知る人ぞ知る、ウニ丼や海鮮丼が破格値で食べられるという、下北ならではの有名店でした。丁度今はウニの季節。平日とはいえ並んだり、最悪売り切れたりしては嫌なので、少し早めに向かいました。
 あれ?空いてる。入り口には張り紙、「ウニ丼はありません」
 う~ん、残念。でも海鮮丼でもいいし。
 「こんにちは~」とりあえず入りました。お客さんは二名いるだけ。お店は高齢女性一人で切り盛りしているようでした。
 店主「今ちょっと事情で、麺類と豚丼だけなんですよ。いいですか?」
 私と弟は顔を見合わせましたが、なにせ田舎のことで代わりのお店も覚束なく、二人でがっかりしながらもうなずき合いました。
 そして、弟は尋ねました。
 「ビールはありますか?」
 「済みません、ビール置いてないんですよ」

 さあ皆さん、この後の展開を予想してみて下さい。私には、誰も当てられないだろうという自信がありますよ。

 店主 「私の自転車を貸しますから、すぐのところに酒屋さんがありますから、買ってきて下さい」
 言うが早いか、おばちゃんは店の外に自転車を取りに行き、弟はいやも応もなく、ビールを買いに行くことになりました。二人のお客さんは笑いを押し殺していたように思います。
 私が座敷に座って待っていると、10分ほどたったでしょうか。弟が戻って来ました。一本の瓶ビールを手に。
 私 「瓶、買ってきたの?」
 弟 「瓶が旨いんだよ。あっちのお客さんも、瓶だ!ってささやいてた」
 私 「でしょうね(笑)。こだわるねぇ」
 弟 「せっかくのビールだからね。旨く飲みたいからねぇ。コップ借りてくるわ」

 弟 「済みません、コップ貸して下さい」
 店主「済みません、コップないんですよ。給水器のところの紙コップ使って下さい」

 弟は憮然として戻って来るや、瓶ビールの栓を手で開け、ゆっくりと紙コップに注ぎました。そして、静かに語りました。
 「もしかしたら、この店には栓抜きも無いかもと思って、酒屋で開けてもらって来た。酒屋も笑ってたけど、多分正解。せっかくの瓶ビール、しかも自転車で買いに行って。それを紙コップで・・・」

 冗談好きでいつも楽しそうに物を言う弟の、静かな語り口。それは、まるでカミの怒りのような恐ろしい語りでした。紙コップだけに。続く。