おばあさん見習いの日々(ダジャレ付き)

1961年生まれ。丑年。口癖は「もう!」

武田百合子『あの頃』を読んでいます 後編

 「文は人なり」と聞きますが、武田百合子の文章の魅力は彼女自身の魅力そのものなのだろうと思います。飾り気が無く、あけすけなのに節度があって。偉ぶらないのにどこか知的。そして、愛情深い。

 

 『よしゆき賛江』と題された短い文章で、武田百合子は一目見た瞬間に恋い焦がれることになった吉行淳之介への思いを、なんの衒いもためらいも無く書いていきます。文章中には「恋」といった表現は出てこないけれど、圧倒的な片思いとでも言うべき感情が実に素直に書かれていて、私は感心したのでした。

 絶対に手の届かないもの、どうやっても自分を振り向いてはくれないと分かっている人。なのにというか、むしろ手に入らないからこそ欲しいその人。普段、会うことが無ければ意識にものぼらないだろうに、顔を見た瞬間に心うばわれてしまう。相手にはそんな気は全然無いのに・・・。ちょっと、吉行淳之介ってどんだけ凄いの?

 

 『よしゆき賛江』の最後の5行を紹介します。百合子氏と淳之介氏の会話の部分です。

 

「お岩の旦那に似ているのね」いつかそのような折にいったら

「ああ伊右衛門ね、誰とか(名前を忘れた)にもいわれたことがある」と当たり前の顔をしていっていた。もしも、私の住んでいるアパートの隣り部屋に吉行さんが越してきたら、私は困ってしまうだろう。隣りに住んでいると思っただけで、気になって気になって、お岩になってしまうのではないか。

 

 前編で書きましたが、武田百合子54歳の文章です。可愛らしくも、どこか色っぽさがあるのです。でも、その魅力も吉行淳之介氏には通じないのでしょう。恨めしやーといったところでしょうか。

 

 ところで、冒頭で「文は人なり」と書きましたが、私のブログを読んで下さっている皆様には、私の「人となり」はどのように感じられますでしょうか。

 素直で真面目で謙虚で正直、そんな私の真の姿が伝わっておりますよう、願っております。これは「伊右衛門」つながりで化しているのではありませんよ。私、真面目なので。では。