青森市浪岡の「常田健 土蔵のアトリエ美術館」の一枚、『水引人』についてです。
この絵を見ながら同行の友人とあれこれ語り合いました。
まず最初は、うつ伏せで眠る水引人達のお尻についてです。
この絵に限らず、常田健が描く農民達のお尻はこんな風に描かれていることが結構あるのです。なんでこんなお尻なんだろう?お尻の中心が右に寄ってるのはなぜ?
そんな風に思っていたところに、友人の言葉です。
「この人達が履いているの、昔の人夫のズボンだよね」
ああそうか!納得がいきました。ピンと来ない方は、各地のお祭りで男性が身につける股引(ももひき)と言えばお分りになりますでしょうか。中心が縫い合わされた現在のズボンとは異なり、左右で別れているものを重ね合わせ、紐で縛って着用するわけです。
「ガッテン」しつつも、絵を見るにも知識って必要なんだなー、そんな風に思いました。
次に語り合ったことは、左と真ん中の二人は、なぜクワを抱えて眠っているのかということです。
そもそも、「水引人」とは何か。私たちの考えは、田んぼに水を引き入れるための水路を作る人、即ち「工事人」という事でした。
私(津軽生まれではありません)は生粋の津軽衆である友人に、嫌みっぽく言いました。
私 「津軽の人って油断も隙も無いから、眠っている間にクワを盗まれないよう抱えているんじゃない?」
友人 「違うと思う。クワを離す間もなく眠ってしまうほど疲れている、そういう労働の厳しさを描いているんだと思う」
お互いに相手の説に「そうかな~」とか言いながら、自分の説が正しいに違いないと思っていたと思います。
そしてその後チャンスがあり、美術館の職員の男性に「なぜクワを抱えているのか」尋ねることが出来ました。
驚きの答えでした。
「これはいわゆる水争いの場面なんです。田んぼに水を引くのは収穫の一大事ですから、よそとの争いになることも。この人達は、自分達の水をよそに引かれないよう見張っている、クワは武器なんです。それですぐに手に取れるよう、手許に置いて寝てるんです」
想定外の説明に友人と顔を見合わせてしまいました。
この絵は1940年の作です。今からたった80年前の出来事ですよ。世の中の変化は凄いスピードで起きるてるんですね。改めて実感した次第です。
そしてやっぱり思ったのは、絵を見るにも知識って必要なんだなーという事です。勝手に物語を作るのもそれはそれで楽しいのですが、独りよがりには限界があります。クワを見れば作業道具としか思わないと言った風に。自分という狭い殻に閉じこもって、勘違いの上に一人あぐらをかいているなんて、くわばらくわばら。そんな風に思ったのでした。では。