おばあさん見習いの日々(ダジャレ付き)

1961年生まれ。丑年。口癖は「もう!」

『なつぞら』の登場人物はいい人ばかり

 NHKの朝の連続テレビ小説なつぞら』を視ているんですけど、登場人物がこれでもかと言わんばかりにいい人ばかりで、驚いています。

 今はそれがホームドラマの主流なんですかね?昔は必ず「敵役」という憎まれ役が登場して、お茶の間の皆さんの怒りや憎しみといった負の感情をたぎらせてくたものですが。(細腕繁盛記のカヨ(富士真奈美)とか。懐かしい・・・)

 そしてその敵役に主人公が一矢報いることで、視聴者にカタルシスを味わわせてくれるというお約束の展開がありました。あるいは、主人公は天真爛漫、純粋無垢なので、己の手を汚すこと無く敵役が自滅していき、そこで視聴者は「ざまあみろ」という快感に浸ったものです。そうでしたよね?

 ところが、最近の日本人は主人公が虐められたりつらい目に遭うという状況は見ることも耐えられない、心優しき人々になったようなんですね。

 あるいは、多様性ということなのでしょうか。様々な人の「立場」というものに思いが至るようになったということかもしれません。または制作する側が配慮するようになったというべきなのかもしれませんが。

 

 大昔(40年前!)の朝ドラで『鮎のうた』というのがありました。ヒロインは山咲千里。そのドラマに寄せられた視聴者の声というのを当時何かで読みまして、今でも鮮明に覚えています。

 「主人公が継母との関係に葛藤しますが、あまりにもかたくなで、血のつながらない子どもを育てている私は、逆の立場で朝から嫌な気持ちになります。」という内容のものでした。

 私が子どもの頃は、家族のあり方には「普通」という型があって、そこからはみでるものは否定的な扱いが当たり前でした。例えば、継母=意地悪=悪、継子=苦労する=善あるいは、継子=ひねくれる=可愛そう、といった感じに。そうして、否定される側は「沈黙」する存在だったわけです。

 私が前述の「鮎のうた」に寄せられた声をハッキリ覚えているのは、その「沈黙」していた側が声をあげたことに対する驚きがあったからだと、今になってわかります。それ程、昔は少数派は沈黙を強いられていたということだと思います。

 勿論、あらゆる方面で多様性が認められる世の中のほうがいいのは間違いありません。ただ、ドラマとしてはスパイスというか、少し塩味も効かせないとあまりにも味気ないというか、いい人ばかりではファンタジーになってしまいます。

 でも、例えば、嫁・姑の諍いといった橋田壽賀子ドラマではおなじみの展開を朝ドラに持ち込んだとします。そうしますと、予想される視聴者の反応としては、「朝から不愉快」「今時の姑は嫁いびりなんかしません」「やっぱり問題があるのは姑の側」等々。女性視聴者の反感をかうのは目に見えるわけです。でも、ドラマのアクセントとして少々の毒は盛り込みたい。そういう需要は確実にある。ではどうするか。

 そこで『なつぞら』に登場したのは、舅(草刈正雄)による、婿養子(藤木直人)いびりなんですね。

 主人公・なつ(広瀬すず)と育ての母(松嶋菜々子)が東京へ行き、残された家族だけの食事のシーンでした。「こんな寂しい食卓は初めて」という孫達と婿養子殿。その婿養子殿に向かって舅殿が言います。

 草刈正雄「そうだな。お前が出征していたときも、寂しくはなかった」

 藤木直人「・・・。」

この台詞で思い出したのですが、子役時代のなつが、「私を働かせて下さい」と言ったとき、草刈正雄が言った台詞が、「偉い。それでこそ赤の他人だ」。その時は、この台詞はひょっとして婿養子(藤木直人)に対する当てこすり?と思ったのですが、間違いありませんね。確信しました。

 

 嫁・姑の確執は女性視聴者から抗議・苦情が来るかも知れない。でも、婿・舅であればクスリと笑いを生むような、丁度いい安全なアクセントになる。そういう計算があるような気がしました。

 CMやテレビ番組等について、女性に対してであれば許されないような、「臭い」とか「ハゲ」とか、そういった表現がなぜ対男性であれば許されるのかという憤りの声を聞くことがあります。もっともだと思います。女性の地位向上は歓迎ですが、相対的に男性が貶められるということはあってはならないことですよね。

 長くなりましたが、最後にもう一点。

 変わらないものや受け継がれていくものを「本質」と言うのであれば、ホームドラマに人と人との確執が欠かせない味付けになるということは、そこに「人の本質」があるということになるのではないでしょうか。

 草刈正雄の「イヤミ」程度が、現代日本人の好む「毒」の濃度ということであれば、あれぐらいの人間関係の軋轢が、脚本家にとって視聴者に受けるエピソ-ドの草刈場とも言うべきものなのだろうと思った次第です。では。